イル・ジャルディーノ・アルモニコ Il Giardino Armonico〔調和の庭〕
リコーダー奏者のジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)をリーダーに1985年にミラノで設立されたアンサンブル。
古楽といえば、フランドルやイギリス、ウィーンで研究・演奏されてきたものが、ラテンの濃い顔そのままの熱い音楽を掲げての彼らの登場に、古楽界が騒然としたものです。
当初のレパートリーのメインはヴィヴァルディ。それまでの古楽のイメージを一新する骨太な表現。ヴァイオリンのエンリコ・オノフリ(Enrico Onofri*現在は退団)を中心とする弦楽器陣の打楽器的弓使い、極限のスルポンティチェロ(駒上奏法)、かと思えば猫なで声。縦横無尽に弦楽器からあらゆる可能性を引き出す奏法・表現が世界に与えたショックは計り知れません。思えば、ヴァイオリンの名工ストラディヴァリ(A.Stradivari 1644-1737)はヴィヴァルディ(A.Vivaldi 1678-1741)と同時代・同国人なわけです。この当時の奏法を探求するバロック・アンサンブルに、極まった弦楽器の表現がつまっていたとしても不思議ではありません。
また、G.アントニーニを中心とする木管楽器奏者たちの並外れたテクニックと緻密かつ大胆な表現に、バロック時代のピリオド楽器の大きな可能性を感じ取った人も多いことでしょう。
イル・ジャルディーノ・アルモニコとは、直訳すれば「調和の庭」という意味になりますが、ちょっとした野性味を意識した命名なのかもしれません。
その後、ヴィヴァルディの器楽作品の演奏・録音が一段落すると、バロック時代のイタリアの諸作品、そして声楽、オペラ作品に触手を伸ばしてゆきます。
日本にもファンの多い、イル・ジャルディーノ・アルモニコ。有名なイタリアのバロックのアンサンブルという認識が定着していますが、2014年に、我々にとって大変興味深いプロジェクトが幕を開けました。
その名も「ハイドン2032」。ハイドン生誕300年に向けて、107曲のハイドン全シンフォニーの演奏・録音プロジェクトが、〈ヨーゼフ・ハイドン財団バーゼル〉の主導のもと始動したのです。
指揮はG.アントニーニで、〈室内オーケストラ・バーゼル Kammerorchester Basel〉と分担して全曲の演奏会と録音(αレーベル)を行うというもの。プロジェクトのテーマは「感情の万華鏡」。ハイドンのシンフォニーを通じて、人間のあらゆる感情を掘り起こそうという試みです。時系列でハイドンのシンフォニーを扱うのではなく、テーマ別にシンフォニーをまとめてみようという企てがユニーク。テーマは例えば「情熱」「哲学者」「うっかり者」など。さらに、同時代におけるハイドンを意識させるため、アルバムには1曲、同時代人の作品(もしくはハイドンの他ジャンル)が含まれるという趣向が凝らされています(当サイトのコンセプトと一致)。同時代作曲家にはグルック、ポルポラ、ベートーヴェン、モーツァルト、C.Ph.E.バッハ、シュターミッツなどが予定されているとのことです。
さて演奏ですが、これが期待十分なもの。イル・ジャルディーノ・アルモニコの鋭い切り口はハイドンにも大変効果的で、バロック音楽で培われた演劇的表現が、さまざまな感情を聴くものの心に湧き立たせます。柔らかな日差しの中で交わされる控え目なひそひそ話など、弱音の表現も絶妙です。
アルバムのブックレットは、このシリーズの宇宙を体現する写真集となっていて、意味深な写真が言葉を発しています。目で耳で楽しむアルバムになっています。
イル・ジャルディーノ・アルモニコはほかにも、イザベル・ファウスト(Isabelle Faust)とモーツァルトのヴァイオリン・コンチェルト全集のアルバムを出すなど、近年、古典派の音楽に積極的なアプローチをかけています。
2032年まで私たちを楽しませてもらいたいものと大いに期待しています。
【イル・ジャルディーノ・アルモニコの写真】
(2018.5.15)
イル・ジャルディーノ・アルモニコの公式サイト
【関連動画】
J.ハイドン:シンフォニー 第70番 ニ長調
イル・ジャルディーノ・アルモニコ、G.アントニーニ(指揮)☆