ヴァイオリン

 現代技術の粋を集めてもこの名工のつくったヴァイオリンを上回ることができないというアントニオ・ストラディヴァリの製作していたヴァイオリンは、現代のヴァイオリンとは若干異なるものでした。指板は短く、角度も穏やか。駒の高さは低く各弦の間隔も少し広めに取られていました。現代、ストラディヴァリのヴァイオリンとしてお披露目されているものは、大きな音が出るようにとマイナーながらかなりの手が加えられたものです。大きな音が出るように弦の張力を高くしているので、ヴァイオリンの構造を内部で支えているバスバーもしっかりしたものに替えられています。

 それでは、改変される前のストラディヴァリはどのような音をしていたのでしょうか。A.ストラディヴァリの生涯は、ヴァイオリンのために無数のコンチェルトを書いたヴィヴァルディの生涯とほぼ一致します。ヴァイオリンの黄金時代はまさにこの時代にあったと言ってよいでしょうか。

 弓の形も今のものとは随分異なり、写真の上から2番目のものが、年代的にほぼストラディヴァリ=ヴィヴァルディの時代のものになり、本物の弓と同じ方向に反っています。

 レオポルト・モーツァルトの、ヴォルフガンフが生まれた年、1756年に刊行した「ヴァイオリン奏法」の中にヴァイオリンを弾く姿勢を示すために図版が掲載されていますが、描かれた弓は上から3番目のものとほぼ同じ形をしています。その後、古典派の時代にだんだんと我々が親しんでいる逆反りの弓になっていきました。

 逆反りの現代の弓の利点は、ダウンボウ(下げ弓)とアップボウ(上げ弓)がほぼ同じように弾けることにあります。バロックボウだと、アップボウは重みのあるアクセントには向かず、クレッシェンドが得意。ダウンボウでは弓元には力がありますが、弓先に行くと力がなくなり、自然に減衰(ディミヌエンド)がかかってしまいます。しかしこれは不利な点というよりも、ダウンボウとアップボウの個性が明確であると言い換えることができるのではないでしょうか。弓を頻繁に返し、音楽に細やかなニュアンスをつけることができるという利点がありました。古典派の時代でも、バロック時代に引き続き、主拍が良い拍で、弱拍が悪い拍という認識が奏者にありましたので、この弓の個性をうまく使いながら、基本的に主拍にダウンボウが来るように工夫をしたりしながら、拍節感やフレーズ感を出していたのでしょう。

 さて、ヴァイオリン本体について、現代のヴァイオリンとストラディヴァリの時代の楽器をすでに比べた通りですが、弦は羊の腸を縒ったガットが使用されていました。一番細いE(ホ)から3番目のD(ニ)の弦までは裸のガット弦が使用されるのが普通でした。裸のガット弦は噛むような明瞭な発音に特徴があり、様々な子音をたてることができます。多彩なおしゃべりの中に歌が交わるような、様々な表情が浮かび上がってくる当時のヴァイオリンを古典派シンフォニーの中でも味わいたいものです。

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