ジョヴァンニ・バティスタ・サンマルティーニ

Giovanni Battista Sammartini 1700/01-1775

 生涯をミラノで過ごし同地で没したイタリアの作曲家。音楽家の家系に生まれ、兄にG.サンマルティーニ(Giuseppe Sammartini 1695-1750)というバロック時代の重要な作曲家がいます。こちら弟のサンマルティーニは、生没年を見ても分かるとおりバロックから古典派の初期の時代を生きた人です。若い頃から音楽的才能をあらわし、オラトリオなどの宗教作品を作曲し、ミラノ近辺の教会や礼拝堂のオルガニストとして活動を始めます。30歳を過ぎる頃からオペラの作曲家としても知られるようになりますが、同時に新しいジャンルであるシンフォニーをオペラの序曲としてではなく、独立した作品として積極的に手がけていくようになります。

 サンマルティーニ若かりし頃の主に北イタリアは、コレルリやヴィヴァルディのトリオソナタ陣をソリストに置くコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)や、独奏楽器一本と合奏団を対比させるコンチェルトが盛んに演奏されていた時代です。サンマルティーニは、そのコンチェルトなどイタリアバロックの伝統に沿った、弦楽器だけの急−緩−急の3つの楽章からなるシンフォニーを書き始めます。

 1730年代のはじめまでにミラノにはサンマルティーニを中心としたシンフォニストたちの集団が形成され、グルックもこの時期ミラノに来て、この一派から影響を受けています。

 サンマルティーニのシンフォニーの意義はアメリカの二人の学者の研究により、今日よく理解されるに至っています。N.ジェンキンスとB.チャーギンのふたりが1976年にサンマルティーニのカタログを発表したのです。その中で68曲のシンフォニーを真作に違いないとしています。

 チャーギンは、作曲家の作風を3つの時期に分けて説明しています。最初はおおよそ1739年まで。二つ目の期間をほぼ1740〜1758年、そして最後を1759〜1775年と。

 初期の作品は、バロックと古典派の語法が混在している時期。弦楽だけの編成でヴィヴァルディを思わせるゼクエンツを展開させる細かい音型からなる活気溢れる作風。中期のシンフォニーは初期古典派様式の例により、ホルンかトランペットが2本加えられた調性感のはっきりとした明晰な構成をもつ作風。後期のシンフォニー群には、独立した声部をもつオーボエが加わり、バスとチェロのパートも分離し、時にヴィオラが2声部に分かれるなどオーケストレーションが複雑化。繊細な扱いがみられるようになります。ソナタ形式の内容は作品により各々異なり、工夫の凝らされた展開が繰り広げられます。

 サンマルティーニはミラノという音楽の中心地にいた分、エステルハージという辺境の地で独自のシンフォニー文化を花開かせていたJ.ハイドンよりもこの時期(存命中の1775年まで)のヨーロッパの音楽文化に及ぼしていた影響は強かったかもしれません。サンマルティーニの楽譜はパリやロンドンでも出版され、パリのコンセール・スピリテュエルの演目に上り、ウィーンやプラハでも演奏された記録が残されています。

 また、一時期ミラノに居を定めていたJ.C.バッハやL.ボッケリーニ、そしてサンマルティーニの元を訪れたW.A.モーツァルトを通して、彼の古典派シンフォニーのエキスはヨーロッパ中に広まり影響を及ぼしました。

 長い生涯の間、彼の創造力は陰ることなく、チェレンジ精神と創意にあふれ、古典派の語法を模索・開拓、それを完成に導いていきました。常に新しいアイデアを盛り込みながら、生涯を通じてシンフォニー、そして古典派音楽の発展の先端にいた作曲家でした。

【G.B.サンマルティーニの肖像画】

 

[ジョヴァンニ・バティスタ・サンマルティーニのシンフォニーを聴く]

シンフォニア ニ長調 JC11

 

 サンマルティーニの他のシンフォニーと同じように急−緩−急の3つの楽章からなるこの作品は、亡くなるまで精力的に活躍していたサンマルティーニ70歳の1770年に刊行されたもので、2つずつのオーボエ、ホルンと弦楽からなる、演奏時間こそ短いながら充実した作品です。

 メヌエット楽章を除いて、多くのサンマルティーニのシンフォニーはソナタ形式で書かれています。両端楽章の主題はリズミックな動機からなり、動機展開の手法を用いつつ細かく形を変化させてゆきます。後期のシンフォニーでは、各々のフレーズが性格づけられ、対称性が際立つように構築され、楽器間の対話により作品に色彩感がもたらされるようになります。ニュアンスに富む和声、長調と短調の対比、不協和音の使用によるテンションの高まりなど感情面にも多くを訴えかけてきます。彼は大規模な主題の反復を避け、控えめに語ることを好みました。主題や部分はしばしば省略され、聴き手の興味を惹きつけ続けることが常に意識された簡潔さがひとつの特徴となっています。

 機知に富んだテーマが次々と繰り出される第1楽章。展開部と再現部は効率良くまとめられていて、冗長さを避けた工夫の凝らされたソナタ形式で書かれています。弦楽だけで奏でられる歌にあふれたセレナード風の第2楽章は3拍子。終楽章・プレストは、諧謔的ともいえる若々しく飛び跳ねる楽章です。

 この曲が作曲された年、モーツァルトがミラノのサンマルティーニの元を訪れています。14歳のモーツァルトがイタリアで書いたシンフォニーやカルテットには、サンマルティーニからの影響をまざまざと聴くことができます。

(2018.10.14)

 

【関連動画】

G.B.サンマルティーニ:シンフォニア ニ長調 JC11より第1楽章

アカデミア・ダルカディア、アレッサンドラ・ロッシ・リューリヒ(指揮)☆