フルート/フラウト・トラヴェルソ

 17世紀に右手小指にひとつのキーが付けられ、半音階が吹奏可能になり世界の笛一族の中から抜きん出た発展を遂げることになるフルート。バロック時代から初期古典派にかけては概ね右の写真のような1キーのフルートで演奏されていましたが、1770年頃より指使いの難しさを克服するために徐々にキーが足されてゆくようになります。唄口も少しずつ大きくなり、音量も出るようになりますが、基本的にバロック時代の1キーのフルートと同じシステムで、管の形状も現代のフルートのような、もしくはルネサンス・フルートのような直管ではなく、先端(奏者右手)に行くほどつぼむ錐管でつくられていました。

 右上の写真は、1745年頃(バロック後期)のG.A.ロッテンブルク・モデルのフルート。左の写真は、1810年に作られたPiering & Schlottによる楽器です。ベートーヴェンのシンフォニーも初演時はこのようなフルートで演奏されていたのです。8つのキーが付けられ、音域も下のドまで拡大され高音域も比較的楽に出るように改変されています。しかし、ここまでキーが付けられても、当時のフルートは基本的に♯系に比べると♭系の作品を演奏することが難しく、輝かしく鳴りのよい♯系、くぐもった柔らかい響きの♭系という各調性による個性の違いが著しい楽器でした。木管で錐管という構造上、まろやかながらも輝きのある音色が魅力的で、シンフォニーでも木管楽器の最高声部にコクのある彩りを添える楽器として重用されました。

 特に現代のフルートと区別するために、「フラウト・トヴラヴェルソ」という呼称が使われることがしばしばありますが、これは「横笛」をイタリア語で言ったものです。本来は「縦笛(リコーダー)」と区別するために用いられた呼称です。現代のフルートもイタリア語で正式に言えば「フラウト・トヴラヴェルソ」に違いありません。

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